従来、日本の教育は、暗記を中心とした詰め込み型教育として知られてきた。しかし、近年では、アクティブラーニングの導入や、センター試験から大学入学共通テストへの移行などにより、個々の思考力や表現力を育み、目まぐるしく変化する社会情勢やグローバル化に対応できる子供を育てようとする動きが見られる。
一方で、一般社団法人の日本デザインマネジメント協会は、社会のあらゆるジャンルで独創性と有用性を発揮できる創造人の育成を目的とする、従来の教育の枠組みを超えた「創造性教育プログラム」の構築に取り組んでいる。同プログラムの設立に向け、今後の社会で必要とされる創造性とは何か、また、現在の日本の義務教育において、どのような障壁が存在するかを探るための調査を行った。
調査では、創造性教育の実態を多角的に理解するため、中学校で先進的な美術教育を行っている先生方、学校外で子供に自由な遊びや学びを提供する学童コーディネーターやミュージアムエデュケーターの方々、クリエイティブな職種で活躍されている方、さらに、小・中学生の子供を持つ保護者の方、計11名に個別インタビューを実施した。
以下、調査を経て見えてきた創造性教育を考える上で重要なテーマと、インタビュー対象者の発言の一部を紹介したい。
「大人の世界で役立つスキル」を教えるのではなく、「子どもなりの考え方・表現」を育てる
近年の義務教育では、子供のうちから将来の仕事に活かせるリーダーシップスキルやプレゼンテーション能力を身につけさせることに目が向けられている。
しかし、子供の創造性を育むためには、子どものうちから大人の世界で役立つ能力を押し付けるのではなく、子どもにしかできない考え方・表現方法を引き出すことで、大人の想像を超えるような自由な発想力や柔軟性を育むことを重視すべきではないか。
「課題解決や方法論があるものは、いくらでも後から身に着けることができるから、大人のシステム的な考え方を子どものうちから身に着けさせる必要はない。子どもは大人と違う世界の捉え方をしていて、子どものうちは子どもの世界を堪能させてあげるのが重要。一つのことに対し、子どもは100個以上の表現、考え方を持っている。言葉でプレゼンするというのは大人の表現の仕方であって、子どもは子どもなりの言葉の表現方法がある。」創造性教育 実践者(学校外)
子どもの頃から自治的な成功体験を積み重ねる機会を提供する
規律や統制を重んじる傾向が強い日本の義務教育では、決められたことに素直に従うことが良しとされがちである。
しかし、子どものうちから裁量権を持って自分の考えを具体的なアクションに繋げる成功体験を積み重ねることは、積極的に社会と関わり、変化を巻き起こしていく力を育むことにつながる。大人が作ったルールに逆らわない従順さを褒めるのではなく、子どもの主張やアイディアを尊重し、子どもの自発的な「やりたい」「変えたい」を実現させる機会を提供することが大切なのではないか。
「最近は生徒会活動を活発にして好きなことやらせていて、そうすると学校全体が面白くなっていく。生徒の立場でも教員と同じレベルで話をして、実は校則や制服も変えられるんだよ、と言うことを知ると、生徒はびっくりする。生徒が自分でやりたいこと・変えたいことを見つけて、それに対してどう行動すれば良いかを考えて、実際行動して変えていく。そういう経験を持つと、その子はとても面白い大人になっていくと思う。」創造性教育 推奨者/実践者(学校内)
「創造性はどのように教育していくべきか」という疑問からはじまった今回の調査だが、インタビュー調査を経て最終的に見えてきた方向性は、「創造性は教えるものではなく、引き出すもの」ということであった。創造性を「新たなスキル」として教えるのではなく、子どもたちが元来持っている自由な発想力、好奇心、探究心を潰すことなく、引き出しやすい環境を作る方法を考えていくべきではないか、という示唆を導くことができた。
ソルトでは、今後も日本デザインマネジメント協会のリサーチパートナーとして、引き続き、創造性教育の未来を探っていく。